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ケーラー「フルートのための35の練習曲 第1巻」第13番を読む

 

第1巻の1番から読みたい方はこちら

 

第1巻も残り3曲となりました。

 

第13番は、異なる曲調が組み合わせてあるので、より実践的な練習ができるエチュードになっています。 

 

曲の世界観を表現できるように、ていねいに楽譜を見ていきましょう!

 


 

調号はシャープが2つ。

 

1小節目と3小節目に「ファ#・レ・シ」の分散和音があることと、4小節目の音階に「ラ#」があることから、ロ短調(h-moll)だとわかります。

 

7小節目にして、さっそくfis-mollに転調するので「あれ?」と思うかもしれませんが、調号と曲の冒頭をしっかり見れば大丈夫です。

 

 

そして、8分の6拍子と「a guisa di Barcarola」が、前半部分の肝となります。

 

「a guisa di Barcarola」は「バルカローレのように」という意味です。

 

guisaはイタリア語で流儀、仕方などのことで、「a guisa di」で「…のように、ふうに」という意味になります。

(参考:『伊和中辞典(第2版)』(1999)小学館)

 

 

バルカローレとは舟歌のことで、多くの曲が8分の6拍子や8分の9拍子で書かれています。

 

舟歌は文字の通り、船を漕ぎやすいように船頭が歌っていた歌からきていると考えられています。

 

「1・2、1・2」とオールで漕ぐ速さなので、ゆったりしたスピードですが遅すぎてはいけません。

 

 

速度記号も「Andantino=Andante(歩く速さ)よりも速く」なのですが、とにかく遅くなりやすいんです!

 

必要以上に遅いテンポは息がしんどくなりますし、聴いている方も疲れるものです(笑)

 

正直、船を漕ぐために書かれた曲ではないので許容範囲は広めですが、メトロノームに合わせて吹く練習はしておくことをおすすめします。

 

 

さて、ざっくりとテンポが決まったところでブレスを考えてみましょう。

 

2小節毎に吸えば十分足りそうですが、問題は4小節目あたりですよね。

 

もし息が続くのであれば、3小節目の前で吸って8小節目の休符まで吹くこともできますが、緊張して息が上がったときのことを考えると途中で吸っておきたいところ。

 

 

ポイントになるのは、4小節目の4拍目です。

 

16分音符の音階ですが、音符によって担っている役割が少し違います。

 

基本的には5小節目から始まるメロディーにつなげる架け橋となっていますが、1つ目の「ファ#」は、それまでのメロディーの終着点にもなっています。

 

そのため、ブレスを取るのであれば、1小節目から続いていたメロディーが終わる16分音符の「ファ#」を吹いた後が好ましいですね。

 

幸いスタッカートもついているので、一瞬の隙を狙って短く吸うことができると最高です…!

 

 

9小節目には「un poco piu agitato=少し今までよりも興奮して」という指示があります。

 

「agitato」には他に「ひっかきまわす」という意味もあるので、音量とともにテンポもわずかに上げるとより効果的に聞こえるかと思います。

 

その後p(ピアノ)と書かれていますが、ピアノから音量を落とすのは簡単ではないので、mpくらいで始めてディミヌエンドをしっかり表現したほうがいいでしょう。

 

また、ここのフェルマータは思い切り長くした方がかっこよく決まりますよ♪

 

 

前半最後の2小節には「stentato=音を引きずるように、重く」と書かれています。

 

音の長さを保つアクセント・テヌートとは違って、テンポも遅くしてほしいようですね。

 

3オクターブ目の「ファ#」は勢いよく吹いたほうが確実に音が出るので、音量が上がってしまっても大丈夫です。

 

最後の「レ・ド#・シ」でしっかり音量を落として、つじつまを合わせましょう。

 

8分休符にはフェルマータがついているので、次のテンポを頭の中で鳴らしてから後半に進みます。

 

 

さて、後半は拍子が4分の2拍子に変わり、テンポも「Piu mosso=今までよりも速く」となっています。

 

曲の中でテンポが変わるときは、基本的に関連性を少し持たせると全体のまとまりが良くなり、演奏もしやすくなります。

 

今回の場合は、【8分の6拍子での8分音符】と【4分の2拍子での4分音符】を同じくらいにするのが良いかと思います。

 

例えば前半の8分の6拍子のテンポを「付点4分音符=50」としていたら、8分音符に換算すると3倍になるので「♪=150」になりますよね。

 

 

しかし、そのまま「4分の2拍子の4分音符=150」としてしまうと、さすがに速すぎます。

 

ですが前半の終わりは「stentato」のおかげでテンポが遅くなっているはず。

 

そのころの8分音符は、だいたい132とかになっていると思うので、そのままのテンポ感で4分の2拍子に進めばスムーズに演奏できると思いませんか?

 

 

ちょっと複雑になってしまったので、もし質問などがあればメールやLINEにお送りください…!

 

 

「con grazia」には、優雅に・上品に・優美になどの意味があります。

 

テンポが速くなり、音の数も増えてアクセントがつくことから、ついつい荒っぽくなりやすいので注意が必要です。

 

 

後半は16分音符が連続するため、一度にたっぷり吸うよりも、回数を増やして短く少しずつ吸うブレスが役立ちます。

 

リタルダンドの部分はテンポが遅くなって吸う時間が作れるので、あえて一番時間が取れる小節線でブレスをする選択もアリですね。

 

 

しかし、上の画像の段では4小節毎のタイミングではなく、その先にある付点8分音符までブレスを我慢したほうが流れとしては良いでしょう。

 

あまりにも短いスパンでブレスを取ってしまうと、「ブレスが続かない」「計画性がない」と思われてしまうかも…。

 

もし手前で吸うのであれば、極力短くバレないように吸うのがベストです(笑)

 

その後も同じく16分音符が続いていますが、少し状況が変わります。

 

それまでは1拍毎に和音の変化や、分散和音から音階への変化が見られましたが、四角で囲っている部分は同じ分散和音の繰り返しです。

 

 

何度も同じことを言われるとしつこく感じるのと同じで、何度も同じことを演奏してはしつこく感じられてしまいます。

 

それを避けるためには

  • 2小節でひとくくりだと自分が認識すること
  • スラーの頭をしっかり吹いた余韻で分散和音を演奏すること

この2つがとても大切です。

 

タンギングはせずとも、カウントを取るように1拍毎に息を入れてはいませんか?

 

まるでロングトーンを吹いているような息で吹きつつ、指を動かすイメージで演奏することがうまくいくコツです。

 

 

ここもブレスに悩みますね~…

 

まず上の段は、3小節目の「ソ」に入る前に小節線でブレスを取ってもいいのですが、できれば前の小節にある半音階の勢いを止めたくない。

 

そうなると2小節目の「シ」を吹いてからブレスを取るか、いっそのこと1小節目最後の「ラ#」を吹かずにブレスを取る方法も考えられます。

 

 

「え?!音を無くしちゃうの?!」と思うかもしれませんが、案外よくやります(笑)

 

タファネル作曲の「魔弾の射手による幻想曲」をはじめとする超絶技巧の曲はブレスのことなんか考えられていないので(大暴言)、音を吹いたかのように息を吸うこともしばしば。

 

 

しかし、2段目はそうはいかないようです(涙)

 

考えられるブレスは3つですが、ブレスの位置は本当に人によるので、いろいろ試して自分がしっくりくるものを選んでみてくださいね。

 

 

この曲の終わりは、強弱がpでリタルダンドやフェルマータがないことから、スマートにスッと終わることが予想できますね。

 

その手前には「stringendo=だんだん速く、せきこんで」とあるので、テンポアップしてそのまま終わることになります。

 

 

一方で音量の変化パターンはいくつか考えられます。

  1. pに向かって音量を落とし続ける (stringendo+dim.)
  2. 音の高さに合わせてクレッシェンドとディミヌエンドをかける
  3. ギリギリまで音量をキープして、いきなりpにする (subito p)

こういった複数の選択肢がある場合は、自分の長所を生かせる方法を選ぶのがおすすめです。

 

高音を小さく出すことが得意であれば 1. 、大きな音に自信があれば 3. を選ぶといった具合ですね。

 

 

「終わり良ければ総て良し」という言葉がある通り、最後は何としてでも決めたいところ。

 

練習であれば苦手なものに取り組む方が効果的ですが、人前で演奏するときには、リスク面も考慮して選ぶことをおすすめします。

 

まとめ

 

書き始める前に想像していたよりも、ブレスの話が長く多くなったことに書きながら驚きました(笑)

 

場所によってはいくつか選択肢がありますが、いつでもブレスの位置は決めてから練習することが大切です。

 

気分によって変えていては、いざという時にうまく吸えなかったりブレスを取りすぎてしまうことにつながるので、手間はかかりますが考えておきましょう♪

 

第1巻も終わりに近づいてグッと難易度が上がっているので、焦らずじっくり取り組んでみてくださいね。