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ケーラー「フルートのための35の練習曲 第1巻」第11番を読む

 

第1巻の1番から読みたい方はこちら

 

 

この練習曲集で初めて三連符が出てくる第11番。

 

基本的に 同じ流れで進む常動曲的な構成なので、比較的苦手意識を持たずに三連符に取り組めると思います。

 

ところどころに出現するアーティキュレーションの変化に対応できるように練習していきましょう!

 


 

調号はなく、1小節目の3拍目の分散和音からイ短調(a-moll)であることが分かります。

 

また、「ソ」にシャープが付いていることからもハ長調(C-dur)ではないと判断できますね。

 

中盤にフォルテが出てくるので、冒頭の音量は控えめにしておいたほうが良さそうです。

 

「Allegro=快活に」「ben legato=きわめてなめらかに」なので、スルスルとよどみなく演奏したいところ。

 

しかし、こういった常動曲は滑って聞こえやすく、自分でコントロールできないまま演奏が進んでいきやすくもあります。

 

それを防ぐには、スラーの始めの音を、気持ち長めに吹くことが効果的です。

 

 

 

そもそもスラーは第5番でも解説したように、「スラーがかかっている最初の音が一番強い」という特徴があります。

(このコラムでは何度でも登場します!)

 

なので、少し長めに吹いても不自然にはなりません♪

 

 

頭の音をつかみ損ねてしまうと、まるでドジョウのように音符がツルツル滑り出すので、特に各小節の1拍目はしっかりとらえられるように心がけましょう。

 

テヌートのように、でもテヌートが書いてあるようには聞こえないような絶妙な長さで演奏できるとベスト…!

 

ただしタンギングが強くなるとわざとらしく聞こえるので、少し多めに息を入れるようにしてみてくださいね。

 

 

 

お次は星マークの部分。

 

こちらは前回の第10番でお話しした通り、スラーの終わりにスタッカートをつけてしまいやすいポイントです!

 

テンポの速い曲なので、まるで切っているかのように聞こえる演奏もあるかもしれません。

 

しかし、あくまでもスタッカートは書かれていないので、必要以上に切ってしまわないように気をつけましょう。

 

 

また、スラーの終わりを切って演奏すると、リズムが分からなくなってしまう人もいらっしゃいます。

 

アーティキュレーションは変わってもリズムは変わっていないので、混乱しないようにゆっくり練習してくださいね。

 

 

同じメロディーが繰り返されたあと、徐々にメロディーが変わっていきますね。

 

3段目のように同じリズムで音の高さが変わっていく形を、「シークエンス(ゼクエンツ)」と呼びます。

 

日本語で言えば「反復進行」となります。

 

シークエンスは、音の高さの変化があるものの、リズムが変わらないことで生まれる緊張感や高揚感が特徴です。

 

 

今回は音が上がっていることや、到達する音が高い(3オクターブ目のミ)であることから、クレッシェンドをかけて緊張感をより高めてはいかがでしょうか。

 

そして「3オクターブ目のミ」で緊張感から解き放たれて、朗々と大きなスラーを演奏しつつ4分音符の「ド」に収めてあげれば、緩急がついた魅力的な演奏になりますよ!

 

 

その後、ヘ長調(F-dur)に転調していく過程で気をつけたいのが【3オクターブ目のド】です!

 

同じ音が連続している場合は、必ず音程が乱れていないかを確認するようにしましょう。

 

2オクターブ目のド#など、特別上ずりやすい音は別として、大抵は音程が下がってしまうものです。

 

特に今回のフレーズは、下の音から上がってくる形なので、何もしなければどんどんずり下がっていきます。

 

楽器によっては「3オクターブ目のド」が上ずるという場合もありますが、基本的には毎回音程を上げ続けるくらいの心意気でいてもらって大丈夫です!

 

 

音程を上げるには、十分な息のスピードを保ち、少し下あごを出して息の向きが上になるようにします。

 

「自分の耳では音程の違いが分からないし、音が短くてチューナーでは認識されない」という人でも、まずは知ることと意識することから始めていきましょう!

 

 

そして、F-durのパートが始まってからも、赤丸のようなところは音程が下がりやすいポイントです。

 

一方で、3オクターブ目の「ファ」や「ミ」は上ずりやすい音の代表格。

 

ここでは息を下向きにして音程を下げれば、何も怖いものはありません!

 

 

さて、もう一つ気になるのが付点8分音符と16分音符です。

 

普段なら楽譜通りに3:1の長さで演奏すれば問題ないのですが…

 

 

実は、「三連符が連続する中で出てくる付点8分音符と16分音符は、三連符のように演奏する」というルールのもと、記譜されていた時代(と国)があります。

 

すなわち、以下のように演奏するということです。

 

 

全部が全部当てはまると思ってはいけませんが、 この曲の場合はテンポが速く、前後も三連符の連続であることから、上記のように演奏するのが自然であると考えられます。

 

バロック時代やそれよりも前の楽譜にはよく出てくる記譜法ですが、割とレアなので出くわすことは多くないはず…です。

 

参考になるページがありましたので、合わせてご紹介しておきますね。

 

東京バロック・スコラーズ - ヨハネ講座 そのⅤ 最終回

 

 

そしてここ!

 

この三連符にまたがる形のスラーで引っかかってしまう人も少なくないかと思います。

 

拍の途中にスラーの始まりが来ることで、リズムを変化させて聴き手を惑わすのですが、演奏者側も惑わされがち(笑)

 

 

これは慣れるまで、とにかく3拍目を掴むことに集中してみることをおすすめします!

 

スラーを一つずつ丁寧に演奏しようとすると余計分からなくなるので、3拍目だけしっかり吹いたら残りは余韻で進めるイメージです。

(これは言葉で説明するのがめちゃくちゃ難しい…)

 

あとはメトロノームに合わせられるように、根気強く練習することですね。

 

最初は合わなくてイライラするかもしれませんが、できるテンポで始めてみてください!

 

 

この曲のエンディングは6小節と短めなので、計画的にゴールに迎えるようにしていきましょう。

 

まず最初の2小節間は、拍頭の音がメロディーで「ラ」と「ド」が伴奏であることが分かります。

 

しかし、メロディーの音が低音のため、しっかり吹こうと思うと音が出なくなることがありますよね。

 

それを避けるためには、息の向きが下になりすぎないように意識することが大切です。

 

 

そして3・4小節目はスラーの頭の音がすべて「ミ」になっています。

 

これは、繰り返すたびに音量がアップするように演奏して、クレッシェンドにつなげていきましょう。

 

もしずっと同じ音量で吹いたら、停滞感が生まれてしまうので注意が必要です!

 

 

最後の休符にはフェルマータがついていますので、最後の2小節はどっしりとした音でたっぷり演奏するとかっこよく終えられます。

 

逆にディミヌエンドをして終えることもできますが、その場合は尻すぼみに聞こえないように、緊張感のある音をキープするように心がけましょう。

 

まとめ

 

今回のようななめらかな音運びの曲は、いかに涼しい顔で吹けるかもポイントです。

 

一生懸命すべての音を全力で演奏してしまっては、聴く側も演奏する側も疲れてしまいます。

 

スラーの頭の音のような“重要な音”を見定めておくことで、滑ったり重くなったりすることなく演奏できるようになるので、よく音符を見るようにしてみてください♪